コラム
2026.2.19
映画を超えたショートドラマ市場 ──中国市場から読み解く日本の未来
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はじめに:日本は3年遅れている。でも、まだ勝てる。
日本でもショートドラマは確実に広がっています。
TikTokを開けば縦型ドラマが並び、ブランド広告が入り、若い世代の中では日常の一部になりつつあります。
制作会社も増えました。
企業案件も増えました。
「ショートドラマ元年」と呼ばれるタイミングも何度もありました。
けれど、私はずっと違和感を持っていました。「稼げないじゃん」と。
ショートドラマ先進国の中国では、すでに市場規模は約1兆円規模に到達し、映画興行収入を上回っています。
トップ俳優はスター化し、ドラマはECを動かし、観光を動かし、広告市場を再設計しています。
一方、日本は産業としてのスケール感がまだない。
はっきり言えば、日本は中国より約3年遅れていると私は感じています。
ただし、ここで重要なのは「追いつけない」という話ではない、ということです。
むしろ逆です。
中国は、ショートドラマを「流通」と「課金」の力で巨大産業にしました。
プラットフォームの統合、決済文化、ライブコマース。
エコシステムが先に完成していた。
しかし今、中国は次の壁に直面しています。
・テンプレ化した逆襲ドラマ
・量産による既視感
・スター依存型市場
・制作費の高騰
流通と課金で拡大した市場は、今「コンテンツの質」という壁にぶつかっています。
一方、日本はどうか。
日本は確かに遅れています。
でも、日本には世界トップクラスの“物語&キャラ創造力”があります。
・漫画家というハイレベル人材
・キャラクタービジネスの積み上げ
・世界市場を熱狂させる流通網
そして今、AI制作技術が進化しています。もしAIによって、
・短尺アニメの高速制作
・少人数チームでの検証
・SNS上での即時フィードバック
が可能になれば、日本は「コンテンツそのもの」を成長エンジンにできる。
中国が流通主導で拡大した市場を、日本はコンテンツ主導で再設計できる可能性があります。
ショートドラマは、単なる縦動画ではありません。それはIPを発掘する実験場であり、コンテンツ産業の再起動装置です。
日本は3年遅れている。
でも、AIとIPの力で、世界のトップに立てる可能性がある。
このコラムでは、中国のデータと筆者の中国知見をもとに、ショートドラマ市場の構造を分解し、日本がどこで逆転できるのかを整理していきます。
遅れているのは事実。
でもこの勝負、日本は勝てるはずなのです。
第1章:スマホの中のドラマが、映画を超えた
2024年、中国の映像業界で象徴的な出来事が起きました。縦型ショートドラマ(微短剧)の市場規模が、ついに映画興行収入を上回ったのです。
『中国微短剧行业发展白皮书(2024)』によると、市場規模は以下の通りです
- ショートドラマ市場:約504.4億元(約1兆円)
• 映画市場:約470億元(約9,400億円)
ーポケットの中で観る数分のドラマが、映画館のスクリーンを超えた
この事実は単なる数字の逆転ではありません。映像体験の主戦場が変わったという意味を持っています。
映画は「週末のイベント」。
ショートドラマは「毎日の習慣」。
このホワイトペーパーによれば、2024年6月時点でのユーザー規模は次の通りです
- ショートドラマユーザー数:約5.76億人
• ネットユーザーに占める割合:52.4%
つまり、中国のネットユーザーの2人に1人が日常的に観ている。しかも、フードデリバリー利用者よりも多いとされています
日本に置き換えてみましょう。もしTikTokの縦ドラマ市場が、日本映画の年間興行収入(約2,070億円)を超えたらどう感じるでしょうか。ニュースになります。アンチコメントでヤフーニュースやXが荒れまくること必須です。しかし中国ではそれが現実に起きています。
何故そうなったか、深掘りしていきましょう。
第2章:なぜ中国でここまで伸びたのか
ショートドラマ市場は、2020年から急激に拡大しました。ホワイトペーパーのデータはその成長曲線を明確に示しています。
2020年:203.1億元
2021年:368億元
2022年:373.9億元
2023年:549.2億元
2024年予測:504.4億元
わずか数年で約2.5倍。なぜここまで伸びたのか。その土台には、中国特有の“デジタル消費文化”があります。
中国ではすでに、
- ライブ配信での投げ銭
• 動画内ECでの即購入
• アプリ内決済の一般化
が当たり前になっています。
「スマホの中でお金を使う」ことへの心理的ハードルが低い。だからこそ、
- 前半無料
• 続きを観るには数元課金
というモデルが自然に受け入れられました。
日本で同じことをやると「縦動画に課金?」という反応が出ます。しかし中国では、ショートドラマはライブコマースや動画ECの延長線上にありました。視聴体験と消費体験が地続きなのです。
言い換えれば、ショートドラマは「動画コンテンツ」ではなく、「TikTok Shop」の発展形として成長しました。
第3章:課金バブルの終わりと、無料モデルへの転換
2023年は、いわば課金型ショートドラマのピークでした。市場規模は549.2億元に達しています。しかし2024年は504.4億元予測とやや減少。これは市場の縮小ではなく、モデルの転換です。
背景にあるのは、次の変化です。
- 広告出稿コストの高騰(36氪報道:獲得単価が倍増傾向)
• テンプレ型「逆襲・復讐」作品の乱立
• ユーザーの課金疲れ
その結果、増えているのが「無料+広告」モデルです。視聴は無料。一週回って、収益は広告やブランドタイアップからという、今の日本のビジネスモデルに回帰しているのです。
ここで重要なのは、求められる力が変わったことです。有料モデルでは「続きが気になる」ことが重要でした。しかし無料モデルでは「最後まで観たい」ことが重要になります。
そのため、
- ストーリーの整合性
• キャラクターの魅力
• 演技力
がより重要になっています。
ホワイトペーパーでは平均視聴回数が2.7回と示されています。特筆すべきは、6回以上同じ作品を見ると答えた層が14%も存在していること。これは「消費して終わり」ではなく、「繰り返し観られる」強度のある作品が増えていることを意味します。
量産型から、IP型へ。
刺激型から、没入型へ。
日本のTikTokで課金型の実装が進まない背景には、現状中国で起こっているこの事態が背景にあると言えるでしょう。
Minisと言われるTikTok内のアプリ(LINEミニアプリのようなもの)を使って外部事業者のサイトに飛ばして課金できるような「アシスト機能」はあるものの、まだまだ本格化していません。
それもそのはず。まずはTikTok Shopをしっかり軌道に乗せて「消費習慣」を日本にインストールしない限りは、課金型ショートドラマの市場は生まれないからです。
次の章からは、多角化する中国ショートドラマのマネタイズ方法について紹介していきます。
第4章:スター経済と制作費高騰 ― もはや“安いコンテンツ”ではない
ショートドラマは低予算で量産されるコンテンツ、というイメージはもう古いかもしれません。ホワイトペーパーによると、視聴回数は特定俳優に極端に集中しています。
- トップ20俳優が視聴回数の72.2%を占有
これは「作品」よりも「人」にファンがつく、通常の映画やドラマのモデルがそのままショートドラマ業界でも起こっていることを意味します。
広告モデルでは、俳優のブランド力が直接価値になります。その結果、
- 出演料の急騰(業界報道:日額数100万〜数千万円規模)
• 制作費の上昇(2000万〜6000万円規模が主流化)
• 話数の削減(元々80~100話だったものが20~40話に)
という現象が起きています(出典:界面新闻、艾瑞咨询)。
さらに中国特有なのが、
- 俳優自身が抖音でライブ販売
• ドラマ関連商品を販売
• ファン課金とECが直結
という構造です。
ショートドラマは、
観る → 推す → 課金する → 買う
という循環を生み出します。制作会社は人気俳優を囲うことで多くのビジネスモデルに挑戦できるチャンスを得ました。
ショートドラマは実験的な取り組みが許される新規産業なため、失敗を許容しながら、コンテンツがECやファン経済とつながることで、収益が多層化しているのです。
だからこそ、
- 市場規模で映画を超え
• 制作費も上がり
• スター経済が成立する
という現象が起きたのです。
第5章:縦型からテレビへ ― 逆流し始めたショートドラマ
ショートドラマはスマホの中のコンテンツ。
そう思っていたら、最近は少し様子が違います。
中国では、縦型でヒットした作品を横型(テレビフォーマット)に再編集し、地上波や大手配信で展開する動きが出てきています。
代表的なのが、ネットとの親和性も高く、バラエティやドラマの制作で中国一と称される湖南テレビの動きです。縦型ショートドラマを再構成し、
- 5分×数十話 →45分×数話のテレビドラマ
へと拡張する動きがテレビ局主導で作られ、かつヒットを記録しているのです。
これは何を意味するのか。
ショートドラマは“映画の代替”ではなく、
IPを発掘するテスト市場になりつつある、ということです。
まず縦型で当てる。データで検証する。人気が確認できたら横型へ展開する。
いわば、
- 縦型=市場検証
• 横型=本格IP化
という二段階構造です。
日本で例えるなら、Web漫画がヒットし、テレビアニメ化し、最終的に映画化される流れに近いでしょう。ただ中国の場合、その検証スピードが圧倒的に速い。実際に2022年のヒットショートドラマを2023年にテレビ向けリメイクを済ませ放送までしているのですから。
縦型ショートは、
- 制作期間が短い
• データ取得がリアルタイム
• 失敗コストが相対的に低い
だからこそ、IPの実験場として機能します。
映画を超えたと言っても、最終ゴールが映画でなくなったわけではありません。映画市場で“も”マネタイズすることが「是」なのです。
ショートドラマは、IPエコシステムの入口になっています。
第6章:では、日本で同じことは起きるのか
ここからが本題です。この流れは日本でも起きるのか。
結論から言えば、可能性はある。ただし前提条件が違います。
中国のショートドラマが伸びた背景には、
- デジタル課金文化の成熟
• ライブコマースの浸透
• プラットフォーム内決済の一般化
• スーパーアプリ化
がありました。一方、日本はどうか。
TikTok Shopは始まったばかり。
ライブコマースはまだ限定的。
縦型ドラマ課金文化はほぼ未成熟。
つまり、エコシステムがまだ完成していないのです。
しかし逆に言えば、これから整う可能性もあります。もし日本で、
- 縦型ドラマ × EC
• 俳優 × ライブコマース
• コンテンツ × 地域観光
が本格的に接続されたらどうなるか。例えば、
- 温泉旅館を舞台にした縦型ドラマ
• 主演俳優がTikTokで衣装や現地の名物や宿泊券を販売
• 視聴者がその場で予約
そんなモデルが生まれれば、ショートドラマは単なる映像作品ではなく、地方創生の切り札になります。中国ではすでに、
- コンテンツが商品を売り
• コンテンツが観光を動かし
• コンテンツが地域経済を刺激する
という事例が増えています。日本でも同様の構造は、理論上は可能なはずです。
第7章:日本の最大の武器は「アニメIP」
ここで、日本が中国よりも優位に立てる分野があります。それがIP創造力です。
日本は、
- 漫画
• ライトノベル
• キャラクタービジネス
• アニメ制作
という世界的に強い資産を持っています。
ショートドラマがIPの入口になるなら、日本の強みはむしろ活きる。
さらに、AI制作技術の進化により、
- 少人数でアニメ制作
• テスト的短尺制作
• SNSでの反応検証
が可能になりつつあります。
ショートアニメでヒットを検証し、
横型シリーズへ展開し、最終的に映画化やグッズ化する。
この流れは、日本のお家芸なので、この型ができたら強いです。
むしろ、課金型ショートドラマより、1人の天才がAIを作って生み出すアニメが世界を熱狂させる未来の方が近い可能性すらあります。
ショートドラマとAIの組み合わせは、とてつもないポテンシャルを秘めているのです。
もちろん、直近のKlingやSeedanceなどの実写生成AI動画の進歩も目覚ましく、実写系AIからヒット作が生まれてくる可能性もあるでしょう。
つまり、AIによって製作委員会が民主化され、ショートドラマによって簡易マーケティングと初期導入が圧倒的に簡単になったことで、中国と違う発展をする可能性も高くなっています。
最終章:ショートドラマは映画の敵ではない
最後に整理しておきたいのは、ショートドラマは映画の敵ではない、ということです。
市場規模だけを見ると、
- ショートドラマ:約1兆円規模
• 中国映画:約9,400億円規模
確かに逆転は起きました。
しかし実態は対立ではなく、
階層化です。
- ショートドラマ=入口
• 横型ドラマ=拡張
• 映画=回収拡張の手段のひとつ
という三層構造が形成されつつあります。
そしてこの構造の中心にあるのは、
- データ
• アルゴリズム
• EC連動
• ファン経済
です。
ショートドラマは単なる縦動画ではありません。
それは「コンテンツ経済の再設計」です。
日本はまだ入口に立ったばかりです。
しかし、条件が整えば、次の主役になる可能性は十分にあります。
問題は、
- どのIPで始めるか
• どのプラットフォーム、どの制作チームと組むか
• どの経済圏と接続するか
です。
映画を超えた、というニュースは派手です。
でも本質はそこではありません。
ショートドラマは、
映像と経済を再接続する装置なのです。
ショートドラマは独特のテンポ感とトンマナがあります。
ここは確実にその制作が得意な制作会社に委ねるべきです。
広告を使わずともオーガニックで再生回数を作れる会社と組むのが最良の選択です。
むしろ、彼らの手元にないショートドラマ以外のマネタイズ方法をどう接続していくか。
大人たちの仕事はここであり、世代を超えたコラボレーションによって大きなムーブメントが生まれていくように思います。
私には明るい未来しか見えません。
新しいエンターテイメントが、ショートドラマから生まれますように。
よくある質問
Q:日本のショートドラマ市場は本当に中国のように成長するのでしょうか?
A:日本は現在、中国より約3年遅れている状態ですが、これは「追いつけない」ということではなく、先行事例の失敗と成功を学べるチャンスです。日本の強みであるIP創造力と、これから整備されるTikTok Shopなどのエコシステムが噛み合えば、中国とは異なる「コンテンツ主導」の爆発的な成長を遂げる可能性が十分にあります。
Q:ショートドラマでマネタイズするには、やはり課金モデルが必要ですか?
A:中国でも現在は課金モデルから「無料+広告・ブランドタイアップ」モデルへの回転換が起きています。日本ではまず、消費習慣をインストールするために、ブランドの世界観を伝える広告モデルや、EC・観光など実体経済と接続した「コンテンツ経済」の形から始めるのが現実的かつ効果的です。
Q:制作費はどのくらいかかりますか?従来の動画制作と何が違いますか?
A:ショートドラマは「低予算の量産品」という段階を終え、現在は高品質な作品に予算が集中する傾向にあります。従来のCM制作との最大の違いは、リアルタイムなデータ取得による検証可能性です。一気に多額を投じるのではなく、まずは縦型でテストし、手応えがあるものを本格IP化するという、リスクを抑えた投資判断が可能です。
studio15編集部
studio15はTikTokの認定代理店としてTikTok Shop支援やクリエイタータイアップなどでこれまで300社以上のマーケティングを支援してきました。その実績をもとに企業向けに最新のトレンドやTikTokノウハウをお伝えする情報を発信しています。
